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このシリーズは、電話を受けている相談員が、相談の中で感じたことを紹介したものです。内容は物語り風にしていますが、実際の相談内容とは異なります。

「父の背中に教えられ」

「あのー、ちょっと聞いてくれますか」ゆっくりと言葉を確かめるような口調でコールが入った。20代の青年からで、かれこれもう3年ひきこもっているという。

「やっと明かりが見えてきたような気がして…」と、苦しかった胸の内や家族への思いを語りだした。

中学時代はトップクラスだったものの、希望校には進学できなかったために挫折感ですっかり無気力になり、不登校からひきこもり状態へと陥った。「自分はこれで良いんだろうか、こんなことしていて自分の将来はあるのだろうか」そんなことが頭の中で堂々巡りをしているうちに気がついたら3年が過ぎていた。

閉じこもるようになってからも、父は部屋の外から「おはよう。行ってくるよ」「ただいま、帰ったよ」「おやすみ」と声をかけていたが、煩わしくて「うるせえな、返事してやるものか」という気持ちもあって、いっさい返事しなかった。この3年間は父親とほとんど顔を合わせていなかった。そのうち、父の変わりない態度に、いつの間にか父の声かけを待っている自分に気づき、そんな日が続いたある日、突然「親は僕を見捨てているんじゃない、大切にされているんだ」という確信みたいなものが湧いてきた。

思えば、父親は一度として、不登校を責めたり、説教をすることはなかった。言葉ではうまく言えないけど・・・今、やっと自分の方向が見えてきた。「高認の予備校に行くことに決めたんです。これから予備校に行ってきます。ありがとう。」と、独り言のような口調で彼の語りは終わった。(高認:高等学校卒業程度認定試験)

不登校、引きこもりという現実は、思春期の子どもを持つどの親にも身近にある。

「なぜ、学校に行かないの」「いじめられたの」「どうするつもり」と、当たり前に口にする言葉が、子どもを愛するという本当の気持ちからかけ離れ、一人歩きして子どもをさらに混迷の渦へと追い込んでいく。多くの親たちは、自分の子どもを信じたいが、将来の不安にかられ、つい追いつめてしまう。そこに今を生きる親の悲しみを感じて切なくなる。

この彼のように、自分の言葉で自分を語り、自分を支えてくれた人にも思いをはせるようになった時、自分の足で大地を踏みしめて歩けるようになるのだろう。そのためにも彼にはひきこもりが必要だったのかもしれない。

彼の旅立ちにエールを送りながら「子どもを信じて待つ」ことができる親と、それに応えた青年の素晴らしさに感動して受話器を置いた。





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